2008年12月31日水曜日

謎かけられしもの


 アリスは退屈そうに息をつきました。
 「も少し、『時(タイム)』の利用法もありそうだと思いますわ」、と思いました。
 「解けもしない謎をかけてそれを浪費するよりか」

 「おまえさんが私のように『時(タイム)』をよく知っていたら」、と帽子屋が申しました。
 「『それ』を浪費するなんていいはしないよ。『時(タイム)』は人間だよ」
    <ルイス・キャロル、不思議の国のアリス>
〝利用法は無いだろう〟

2008年12月30日火曜日

時の流れ


 芸術作品はただ見かけだけが不動なのである。
 それは不動の誓いというべきものを表現しており、一時的な停止の姿を示している。
 だが、それは過去の一瞬における不動にすぎない。
    <アンリ・フォショーン、形の生命>
〝時の流れは思いのほか早い〟

2008年12月29日月曜日

死にいたる病


 信仰、愛、そうしたものが存在するとしたら、
 平穏無事なものではありえない。
 それはひとを引きずってゆき、打ちのめすもの、
 死にいたるまで灼きつくすはずのものだ。
    <ル・クレジオ、物質的恍惚>
〝ひき潮に昔日をかえりみる〟

2008年12月28日日曜日

神の掟


 おれはおまえを憎んでいるから、おまえの足もとにつばをしてやるんだ。
 神よ、おまえはおれを悩まし、さいなんだ。
 おまえは、だれも守れないようなおきてを定めた。
    <ヘルマン・ヘッセ、内面への道>
〝規範のもつ深い意味は・・・〟

2008年12月27日土曜日

天使


 ディオニシウスに拠れば、人間と天使の間には次の相違がある。
 天使は単に想像するだけで真理を認識するが、人間は雑多の材料から帰納して単一の真理に到達する。
    <トマス・アクィナス、無限>
〝こころで見る、想像もしない〟

2008年12月26日金曜日

文化の使命


 われわれが結束して文化を作ったのも、このような自然(冷酷、残忍、無慈悲なやり方でわれわれを制約する)の側からの脅威に直面したからこそであって、文化の使命の中には、われわれの共同生活の可能化ということも含まれている。
 それどころか、文化の第一の使命、文化の存在理由の根本は、われわれを自然から守ることなのだ。
    <ジークムント・フロイト、フロイト著作集3>
〝自然は人の行く果てに於いて自らをもっともあらわす〟

2008年12月25日木曜日


 私は空という永遠にあこがれながら、それを非人間的なものとして敵視していた。
 私は地に拠って空と戦った。
    <谷川俊太郎>
〝人にまつわり付き人に染まらず人を背のびさせ人をつつみ込む、空〟

2008年12月24日水曜日

カールはカール


 カールはカールで、グリーンはグリーンで、各自がその能力でやってゆくようにすべきなのだ。
 二人の間に必要な社会的な結びつきは、一方の勝利か敗北かによって時と共に生じてくるだろう。
    <カフカ、カフカ全集Ⅱ>
〝社会的な結びつきにもうひとつある、しかし相互性がつよく持続力がない〟

2008年12月23日火曜日

自然の揶揄


 おまえにしろ誰にしろ、自分以上の「自分の生命」がある、またはあらねばならぬ、という考えはみんな持っているでしょう。
 もしあたしというものが、ここにあるだけのものが全部だったなら、神があたしをお造りになったかいがどこにあるでしょう?
    <E・ブロンテ、嵐が丘>
〝観念は空を飛ぶか?〟

2008年12月22日月曜日

馬の知識


 ラテン語で馬をエクス「equus」というと知ったとしても、私の馬に関する知識は増しはしない。
    <スタンダール、パルムの僧院>
〝馬も知識を増すわけではない〟

2008年12月21日日曜日

矛盾


 完全な教育とは、(1)自然の教育 (2)事物の教育 (3)人間の教育、
 この3つが矛盾しないで「一致して同じ目的に向かっているときである。」
    <ジャン・ジャック・ルソー>
〝矛盾は実在しない、しかし人は矛盾に満ちている・・・ように振る舞う〟

2008年12月20日土曜日

ヴェネツィア


 ヴェネツィアの人々はみな、舞台を行く人のように歩く。
 それはいつもどこか俳優たちを思わせる。
 舞台の左右に彼らの居場所はなく、演技はひたすら舞台の上で進行する。
 過去の現実に原因を求めるでもなく、また未来の現実に作用を及ぼすでもない。
 すべての行為は、背後をもたぬ前面と化し、一方の辺が消去された方程式の他の辺と化す。
    <ゲオルグ・ジンメル>
〝一期一会は俳優たちの人生衣裳〟

2008年12月19日金曜日


 どの道もどこへも行きつきはせぬ以上、
 どれでも一つを選んで全精力をつぎこむがいい、
 ということでしかない。
    <C.ウィルソン>
〝道に見え、広野に見え、宇宙に見え、そしてあなたはそれに包まれる〟

2008年12月18日木曜日

ロマンティック


 ナチの跳梁に悩まされぬいた中欧の戦中派の人びとにすれば、それに有効に抵抗し反撃できなかった自分たちの無力の根源を求めてゆくと、自分の中の政治を 蔑視し精神的なものをそれから超越したところに求めるロマンティックな体質につきあたったという事情もあって、中欧、ことにドイツ、オーストリアの芸術家 やインテリたちの間には、「ロマンティック」という言葉に、許しがたく非時代的なもの、致命的に季節外れなものをききとるという気風があり、何かを誰かを ロマンティックと呼ぶことは、ほとんど救いようのない病気に冒されたものとか人間を指すとでもいった響きをもつ時期があった。
    <吉田秀和>
〝それでも歴史はロマンティックな宵の道案内人たらんとする〟

2008年12月17日水曜日

藝術


 藝術の中に命を見出したいという傾向は、僕はいわゆる浪漫主義の運動から始まった一つの思想だと思う。
 藝術なんていうものは何でもなかった、ただ生活というもの、人生というものをどんどんよくして、喜びを増すその手段に過ぎなかった。
 藝術なんてものは昔そういうものだったんだよ。
 ところがだんだん浪漫派からそうじゃなくなって、今度は藝術のために生活を犠牲にしようという思想が生じたんだ。
 僕らはそういう思想からまだ脱けずにいるんだ。
 だから浪漫派藝術の運動というものは非常に大きな運動で、リアリズムの運動でも、象徴派、表現派、何でもいい、あらゆるものが浪漫主義の運動の子供なのだ。
 そういうものが生んだ子供で、僕らはまだそういうものから脱けていない。
    <小林秀雄、対話集>
〝藝術の性質について本質的に誤っている。線や面は心の何を刻む手段なのか。ラスコー壁画の意味するものは何なのか〟

2008年12月16日火曜日

シュルレアリスム


 シュルレアリスムの目的は、意識界と無意識界、内的世界と外的世界との間の肉体的と同時に精神的な障壁を取り除き、現実と非現実、瞑想と行為とが交叉し、混合して、全生命を支配するような超現実性を創造することである。
    <マックス・エルンスト>
〝生物性の放棄は而して身体世界まで及んでいる〟

2008年12月15日月曜日

子守唄


 日本の子守唄は、赤ん坊のためというよりも、母親の悲しみの吐露だったのではないか。
    <本多勝一、ニューギニア高地人>
〝世代をふり連綿とつづく哀歌〟

2008年12月14日日曜日

耕す


 甲は乙のために耕し、乙は丙のために耕すが、誰ひとり自分自身を耕すものはいない。
    <セネカ、道徳論集>
〝自らの収穫まで待てないのだろう〟

2008年12月13日土曜日

感情と愛


 感情とはひとに「いだかれる」ものであり、
 愛とは「生じる」ものなのである。
 感情はひとのうちに宿るが、ひとはおのれの
 愛のうちに住むのである。これはけっして
 比喩やたとえではなく、実際の事実なのである。
 愛は、われにしがみついて離れず、なんじさえ
 自分の内容や対象としてしまうような感情ではない。
 いや、愛は、われのうちにはなく、
 まさにわれとなんじのあいだにあるものなのである。
    <マルティン・ブーバー、我と汝>
〝宗教家はおおらかな大自然を矮小にする〟

2008年12月12日金曜日

善悪


 個々の部分においては、他の或る物と不調和なるがゆえに、悪と考えられているものがある。
 然るに、それらの物でも別の物とは調和して善であり、またそれ自体において善である。
    <聖アウグスチヌス、告白>
〝宗教的であることは社会的であることを意味しない〟

2008年12月11日木曜日

人の義務


 義務は普遍と個別との合一によって確立する。
 義務は決して外から与えられ、強要せられたものではなく、
 自己から出たものである。
 自己の実現が(即ち個別のうちに普遍を現はすことが)義務なのである。
    <和辻哲郎>
〝真摯に受け止めたい、生の瞬間ごとにそれを現はすのだ〟

2008年12月10日水曜日

学問


 「学問」には、「すぐ使えるもの」と「いつか使えるかもしれないもの」の二つがあります。 
 読み書きや四則の計算はすぐ使えますが、二次方程式の解の公式、オームの法則、古代史や中世史、古文や漢文などは多くの人にとって実生活で使うチャンスが一度もないかも知れません。
 しかし「すぐ使えるもの」しか勉強しないとしたら、将来の可能性が著しく限定されてしまいます。
 思考や情緒の幅が広がらず、従って視野も狭窄してしまいます。
    <藤原正彦>
〝二つとも使ってみたが短い人生に使われてしまった〟

2008年12月9日火曜日

自由の女神


 太平洋を渡ってきたアジア人には、挨拶してくれる自由の女神はいません。
 それにニューヨークまで会いにいっても、彼女は西に顔を向け、東からやってくるアジア人の顔を見ようともしません。
〝東洋、自由の対極、女神の住み処のない空間〟

2008年12月8日月曜日

幸福な夢想者


 私は牛だ。私はエジプト人だ。私はインド人だ。・・・私は農夫、労働者、工員、召使、主人、貴族、皇帝なのだ。
 私はすべてであり、生であり、無限者なのだ。・・・私は肉体と感情の中に住む神だ。
    <ニジンスキー>
〝私は空中を歩む足だ、と言いたいが〟

2008年12月7日日曜日

名声と孤独


 ロダンは名声を得る前、孤独だった。
 だが、やがておとずれた名声は、彼をおそらくいっそう孤独にした。
 名声とは結局、一つの新しい名のまわりに集まるすべての誤解の総体にすぎないのだから。
    <ライナー・マリア・リルケ>
〝更に深い孤独には誰も見向かない〟

2008年12月6日土曜日

表のカフカ


 たとえば、私は、事務室に坐って書類をかきまわし、真面目腐った顔付のうしろに、この傷害保険局に対する嫌悪を隠そうと努めています。
    <カフカ、カフカとの対話>
〝カフカの表と裏には埋め得ない空隙がある、而して非才に無い〟

2008年12月5日金曜日

表(おもて)


 スタンダールを読んで得ること。
 それは、表にあらわすことに対する軽蔑である。
    <アルベール・カミュ、読書ノート>
〝表は裏となり裏は表となる、思考はメビウスの輪〟

2008年12月4日木曜日

近い景色


 あんな教会だの、鐘の音だの、いったいなんのためだろう。
 なんのためにあんな嘘が必要なんだろう?
 ただ、わたしたちがみんな、
 お互いに憎みあっていることを、隠すためなんだわ。
    <トルストイ、アンナ・カレーニナ>
〝目を閉ざしては生きていけないから、
  目の前に幻燈を映し出して遠くを見ないようにしたい〟

2008年12月3日水曜日

骸骨


 わたしは骸骨などになるために生まれて
 きたのではございません!
    <アルチュール・ランボオ、地獄の季節>
〝でも再演はない〟

2008年12月2日火曜日

再演をまって


 きみのもとに帰ることを思うと、
 子供みたいにうれしい
 もし誰かに胸のうちを覗かれたと
 したら、恥ずかしいくらいだ
    <アマデウス・モーツァルト>
〝人生は再演のない芝居、観客は地球自然なり〟

2008年12月1日月曜日

ピアノの色彩


 音の響きを厚みの少ない透明なものにするために弱音を多用した。
 「グールド君、どうして君がソフト・ペダルを使うのか分かりませんね。必要ないでしょうに。音の響きが女性的になってしまいますよ」
 「けれどセル博士、ぼくの場合は、きわめて薄めの響きが好きなんですよ。言ってみれば、緊張が和らぎますからね。もっと大きな音を出せとおっしゃるのならそうしますが、ソフト・ペダルはやめませんよ」
 グレン・グールドは色彩を嫌った。
〝ピアノの詩人、真の時間の一瞬の保有者〟