夜もだいぶ更けた頃、オーストリア人はふとつぶやくようにいった。
「三十歳の時、一ヵ月の休暇のつもりでこのカプリ島に来たのが、気がついてみたら四十年間になっていました」
誰もが黙っていた。この男に対しては、理性的であろうと感傷的であろうと、あらゆる言葉が無用に思われた。ただこの男が、七十歳の老人とは、どうしても見えなかった。美しいといってもよいその顔からは、老人の多くが持つあせりや影は見出せなかった。
自らの欲するものを知ってその人生を歩む、一人の男がそこにいた。
<塩野七生、カプリ島>
〝自らの欲するものを知ってその人生を歩む、しかし時が不足している!と、想うその心は、あせりと影に充ち満ちているような、そうでないような。ゆっくりと星を仰ぎみる…。〟
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