
人間の記憶とは、脳のどこかにビデオテープのようなものが古い順に並んでいるのではなく、「想起した瞬間に作り出されている何ものか」なのである。
つまり過去とは現在のことであり、懐かしいものがあるとすれば、それは過去が懐かしいのではなく、今、懐かしいという状態にあるにすぎない。
<福岡伸一、動的平衡>
〝つまり無いものはもはやない、過去の波に押し流されてしまえばすべて失せる。今の記憶のなかで想起されるものはみずからが作りだした情念世界の慰めでしかない。サルバドール・ダリの描く海浜に打ち捨てられた白い貝殻を思い出す。それは記憶の中で演じられるぬけがらの過去。しかもそれは、今でしかない過去。なぜひとり人間のみが今にしかすぎない過去を、あたかも蚕が白いまゆの糸を無心に紡ぐように紡ぎはじめたのか。この世は過去という名の情念世界の慰めに満ちみちている。それは現実感の無い今となって人の行方に蜃気楼のように立ちはだかる。人間を生かしめているのは誰の策謀か。〟
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